突然、社内のIT担当を任されて戸惑っている方も多いのではないでしょうか。とくに専任ではなく、ほかの業務と兼務している場合や、前任者からの引き継ぎが十分でなかった場合、何から手をつければよいのか分からず不安に感じるものです。しかも「パソコンに詳しそうだから」「詳しい人が他にいないから」といった理由で抜擢されるケースも少なくありません。
本記事では、そんなひとり情シスや兼任情シスとして働く方に向けて、着任直後にやるべきことをわかりやすく整理し、業務を円滑に進めるためのコツや、よくある課題の対処法を丁寧に解説します。ITスキルに自信がなくても大丈夫。まずは社内環境を「見える化」し、小さな改善を積み重ねることから始めましょう。
社内のIT担当になった!仕事内容は?
社内のIT担当と聞くと、パソコンやネットワークの管理を専門的に行う職種をイメージするかもしれません。しかし、実際は本業の傍らでIT業務を担うひとり情シスや兼任担当が多く、明確なマニュアルもないまま手探りで対応しているケースがほとんどです。業務範囲が広く、責任も重くなりがちなこのポジションについて、まずはその実情と背景を整理していきましょう。
IT担当を任される理由
社内のIT担当を任される理由は、必ずしも「ITの専門家だから」というわけではありません。実際には「前任が退職した」「部署で一番パソコンに詳しそうだった」「若手だから柔軟に対応できそう」といった、あいまいな理由で指名されるケースが多く見られます。とくに中小企業やスタートアップでは、専任の情報システム部門が存在せず、他業務との兼任でIT全般を担う“ひとり情シス”が常態化しているのが現状です。
背景には、IT業務が「とりあえずできそうな人に任せれば回る」という誤った認識が根強くあることも影響しています。結果として、必要な知識や権限を十分に与えられないまま、多岐にわたる課題対応を求められることになります。
また、IT環境の複雑化に対して、経営層が現場の負担やリスクを把握できていないことも少なくありません。このような状況を放置してしまうと、業務の属人化やセキュリティリスクにもつながります。
まずは、なぜ自分がIT担当に選ばれたのかを客観的に見つめ、任された役割の意義と期待を理解することが第一歩です。
想定される業務範囲は?
IT担当として任命された当初、「社内のパソコンやネットワークの管理くらいだろう」と考えていた方も多いかもしれません。ところが実際には、業務用ソフトの導入支援やライセンス管理、セキュリティ対策、サーバーやクラウドの設定、さらには社員からのトラブル対応まで、多岐にわたる作業がのしかかってきます。さらに、これらが明文化された業務範囲ではなく、都度発生する“お願いベース”で増えていくことが少なくありません。
このギャップは、任命側の認識と実務の乖離から生まれます。とくに兼任の場合は、IT業務にどの程度の時間とスキルが必要かを上司や周囲が理解しておらず、結果として本来業務との両立が困難になることもあります。放置すれば、残業の常態化やミスのリスクが高まるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
まずは、現状の業務を洗い出し、「できること」と「対応が難しいこと」を整理しましょう。業務内容を見える化することで、周囲との認識をすり合わせやすくなり、無理な依頼を防ぐ第一歩となります。
「何でも屋」にならないための心構え
社内で「ITのことはあの人に聞けば何とかなる」と思われてしまうと、ITに限らない業務まで引き受ける羽目になることがあります。たとえば、プリンターの紙詰まり対応、会議室のモニター調整、動画編集の相談まで、気がつけば“何でも屋”として頼られる存在になってしまうのです。これは一見、信頼の表れのようでいて、業務過多と役割のあいまい化を引き起こす要因でもあります。
この状況を避けるには、「対応できること」と「専門外のこと」を明確に線引きする意識が必要です。断る勇気を持つことは悪ではなく、業務の健全な運営に欠かせない判断力です。また、対応依頼を受けたときに「この件は○○担当に確認してください」「マニュアルに従って操作してみてください」といった形で、他部署や仕組みを活用する姿勢も有効です。
便利な人から頼れる担当者へと立ち位置を変えることで、業務の質と効率を守りながら、自分自身の負担も減らすことができます。
着任直後にやるべき基本は7つ!
IT担当として着任したら、まずは業務全体の把握よりも「今、何がどこにあるか」を明確にすることが優先です。社内のIT環境は、ハード・ソフト・アカウント・ネットワークと多岐にわたっており、把握していないまま運用を始めるとトラブル対応や更新作業で混乱しやすくなります。ここでは、着任初期に行っておきたい7つの基本事項を順を追って解説していきます。
社内のIT資産を把握する
最初に取り組むべきは、社内にあるIT資産の全体像を把握することです。パソコン、スマートフォン、ルーター、プリンターといった「機器」はもちろん、OSや業務ソフト、ウイルス対策ツールなどの「ソフトウェア」、さらにそれぞれの「ライセンス状況」まで含めて棚卸しします。これを怠ると、後に不具合やセキュリティ事故が起きたときに原因を特定できず、対応に時間を要してしまいます。
一覧化の方法としては、Excelやスプレッドシートなどで、項目ごとに「機種名」「台数」「使用者」「購入日」「保証期限」「ライセンス有無」などを整理して記録しておくのが効果的です。特に法人向けソフトの多くは利用台数に制限があり、ライセンス違反のリスクを避けるうえでも重要な確認項目です。
また、今後のトラブル時や入れ替え時の対応をスムーズにするためにも、保管場所や設定情報も含めて記録しておくと便利です。この棚卸し作業は面倒に見えますが、社内ITの「地図」として今後の運用の基盤になります。
アカウント管理の全体像を整理する
社内で使用されているアカウント情報を正確に把握することは、IT担当の最重要タスクのひとつです。パソコンのログインID、メールアドレス、クラウドサービス、業務システム、Wi-Fi接続、各種管理ツールなど、アカウントは部門ごと・個人ごとに分散しやすく、放置すれば誰が何を使っているか分からなくなります。
まずは、各サービスに登録されているユーザー一覧を確認し、どの社員がどのアカウントを保有しているか、誰が管理者権限を持っているかを一覧化しましょう。社員の異動や退職後にアカウントが放置されると、不正アクセスや情報漏洩のリスクが高まります。使用していないアカウントは早めに削除、必要なものは適切な権限設定を行いましょう。
パスワード管理も重要です。個人に任せきりでは漏洩リスクが高まるため、必要に応じてパスワード管理ツールの導入や、定期的な変更ルールの設定も検討します。加えて、管理者アカウントに対する二要素認証の導入も、セキュリティ強化に有効です。
アカウント管理は「なんとなく」で済まされがちな部分ですが、トラブル時の影響が大きいため、着任初期に必ず見直しておくべき領域です。
バックアップ体制を確認・見直す
万が一のトラブルや障害に備えて、データのバックアップ体制を整えておくことは、社内ITの基本中の基本です。突然のパソコントラブルやサイバー攻撃、操作ミスなどにより、大切なファイルやシステムが失われるリスクは常に存在しています。そのとき、バックアップがなければ業務が止まり、重大な損失につながることもあります。
まずは、現在どのようなバックアップが取られているかを確認します。対象は社内サーバー、共有フォルダ、クラウドストレージ、業務ソフトのデータベースなど多岐にわたります。自動で定期的に保存されているか、保存先は社内かクラウドか、復元手順が明確か、といった点をひとつずつチェックしていきましょう。
バックアップ先が社内のみに限られている場合は、災害対策としてクラウドや外部ストレージとの併用も検討すべきです。また、実際に復元できるかを検証する“リストアテスト”も重要です。バックアップを取っていても、いざという時に戻せなければ意味がありません。
バックアップ体制は「問題が起きてから見直す」では遅すぎます。IT担当として、日常的に確認・改善する習慣を持ちましょう。
セキュリティ状況をチェック
IT担当者として避けて通れないのが、セキュリティの確認と管理です。ウイルス感染や不正アクセスといった脅威は、企業規模にかかわらず日々発生しており、ひとつの油断が情報漏洩や業務停止といった深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。まずは社内のセキュリティ対策が機能しているかを点検しましょう。
具体的には、ウイルス対策ソフトがすべての端末に導入され、かつ定義ファイルやソフトウェアが最新版に更新されているかの確認が必要です。また、OSや使用ソフトのバージョンが古いままだと、既知の脆弱性が悪用される危険があります。自動アップデート設定の有無も含めて見直しておきましょう。
社内のネットワーク構成やWi-Fi設定、外部とのデータ共有ルールについても見直しが必要です。共有フォルダへのアクセス権限が適切に設定されていない場合、内部からの情報流出リスクも生じます。
最低限のセキュリティ対策が整っているかを“見える化”し、不足があればすぐに対策を講じることが重要です。万が一の被害を防ぐには、日頃の地道なチェックがもっとも効果的な予防策になります。
問い合わせ・トラブル対応のフローを整える
「パソコンが動かない」「印刷できない」「Wi-Fiがつながらない」など、社員からのIT関連の問い合わせは日常的に発生します。これに対し場当たり的に対応していると、同じ内容の相談が繰り返されたり、担当者の負担が増大したりと、非効率な状況に陥ります。そこで重要なのが、対応の“フロー化”です。
まず、問い合わせを受けた際のルートと記録方法を決めておきます。口頭やチャットでの相談に対しても、簡易的なログを残すことで、誰が・いつ・何を相談したのかが明確になり、対応の抜け漏れを防げます。できれば、問い合わせ用のテンプレートやフォームを用意しておくと、対応しやすくなります。
次に、よくある問い合わせには、あらかじめ簡易マニュアルやFAQを用意しておき、同じ説明を繰り返さずに済むよう工夫します。マニュアルは共有フォルダや社内ポータルにまとめておくと便利です。
また、緊急対応が必要な障害と、後回しにできる軽微なトラブルを分類し、優先順位を決めておくことで業務の効率が大きく変わります。IT担当者の負荷を減らしつつ、社内全体の対応スピードを上げるには、こうした仕組み化が欠かせません。
よくある問い合わせをFAQ化・マニュアル化する
社内からの問い合わせには、内容に共通性があります。「パソコンのパスワードを忘れた」「プリンターが動かない」「ソフトの使い方が分からない」など、よくあるトラブルは、担当者が何度も同じ説明を繰り返す負担につながります。こうした定番の質問をFAQやマニュアルとしてまとめることで、対応の効率が大きく向上します。
まずは、過去に対応した問い合わせを振り返り、内容別に分類してみましょう。社員から寄せられる質問やトラブルの中には、パターン化できるものが多くあります。その内容を簡潔なQ&A形式にまとめ、スクリーンショットや図解を加えると、視覚的にも分かりやすくなります。
マニュアルはPDFやクラウド上で共有できる形式で管理し、社内の誰でもアクセスできるようにすると効果的です。社内ポータルや共有フォルダに「ITヘルプ集」として整理すれば、自己解決を促しやすくなります。
一度に完璧なものを作る必要はありません。問い合わせを受けるたびに更新・追記を行う“運用しながら育てる”姿勢で、少しずつ内容を充実させていくことがポイントです。
ベンダー・業者との窓口を確認・整備する
社内のIT業務には、外部のベンダーや業者と連携が必要な場面が多く存在します。たとえば、ネットワーク機器やサーバーの保守、業務システムの運用、ソフトウェアのライセンス契約など、それぞれに対応する外部パートナーが存在する場合、その連絡先や対応範囲を明確に把握しておく必要があります。
まず行いたいのは、現在契約している業者のリストアップです。「何の業務を、どこの会社が、誰の窓口で担当しているか」を整理しましょう。過去の見積書や契約書、メール履歴などをもとに情報を収集し、一覧化しておくと便利です。トラブル発生時に、即座に連絡できるよう連絡先や担当者名、対応可能時間なども記載しておきます。
加えて、ベンダーとのやり取りの履歴を記録しておくことも大切です。依頼内容や対応スピード、トラブル時の対応などをメモしておくことで、契約更新時の判断材料にもなります。
ひとり情シスや兼任担当の場合、担当不在や引き継ぎ漏れがリスクになりやすいため、「外部との接点情報」は必ず見える化しておくことが、安定したIT運用に直結します。
業務を属人化させないための工夫
IT業務は、その性質上ブラックボックス化しやすく、担当者本人しかわからない状態が常態化すると、引き継ぎやトラブル対応が困難になります。とくにひとり情シスや兼任担当の場合、急な退職や長期休暇の際に社内全体が困る事態も起こりかねません。そうならないために重要なのが、日ごろから「見える化」と「共有」を意識した仕組みづくりです。
運用ログ・設定情報は必ずドキュメント化
IT業務を属人化させない第一歩は、すべての設定や対応履歴を「記録として残す」ことです。たとえば、ネットワーク機器のIPアドレス、プリンターのドライバー設定、各種ソフトウェアの導入手順、障害時の対処内容など、日々の運用で発生する情報は、必ずドキュメントにまとめておく必要があります。
記憶に頼る運用は、その人が不在になった瞬間に業務が止まるリスクをはらんでいます。設定の変更や障害対応を行った際には、日時・作業内容・担当者・結果を簡単にでも記録し、共有フォルダや社内ツールに保存しておきましょう。手書きのメモや個人のローカル保存では意味がありません。誰でも確認できる状態で残すことがポイントです。
ドキュメントの形式は、特別なテンプレートを用意しなくても構いません。ExcelやGoogleドキュメントなどでシンプルにまとめ、「いつ・何を・なぜ・どうしたか」がわかる内容であれば十分です。小さな積み重ねが、大きなトラブル回避や引き継ぎの負担軽減につながります。
属人化を防ぐために、「書いて残す」は最も基本で、最も効果的な手段です。
社内でITの見える化・共有文化をつくる
IT業務は、目に見えにくい作業が多いため、周囲からその大変さや重要性が理解されにくい傾向があります。その結果、担当者が一人で抱え込み、他の社員は「何をしているか分からない」という状態になりがちです。こうした状況を防ぐために有効なのが、IT業務の“見える化”と“共有文化”の定着です。
まずは、社内のITに関する仕組みや対応フローを、誰もがアクセスできる場所に明文化しておきましょう。共有フォルダや社内ポータルに「ITマニュアル」「対応履歴」「よくある質問集」をまとめ、検索しやすい状態にしておくことが理想です。こうした情報が可視化されることで、他の社員も「これは自分で確認できる」「この手順で対応できる」と主体的に動けるようになります。
また、ITに関する質問や改善提案を出しやすい雰囲気づくりも重要です。「相談していい」「確認していい」空気があれば、情報は属人化せず、共有されやすくなります。
IT担当者がすべての情報を抱え込まず、チームや組織全体で支える意識を持つことで、業務の安定性も高まります。共有を前提とした仕組みと意識改革が、属人化を防ぐ強力な武器になります。
引き継ぎ可能な体制を意識する
「いざという時、誰が代わりに対応できるのか」を常に意識することは、ひとり情シスや兼任担当にとって欠かせない視点です。病気や退職、長期休暇などの突発的な事情で業務を引き継ぐ必要が生じた際、情報が本人の頭の中にしかない状態では、業務が止まり、社内全体に影響を及ぼします。
このリスクを回避するには、普段から「引き継ぎできる状態」を保っておくことが大切です。具体的には、業務の手順書や設定情報、連絡先一覧などを常に更新し、誰が見てもわかる形式でまとめておきます。必要に応じて、他部署のメンバーに簡単なレクチャーを行ったり、代理対応できるような“最低限の知識共有”も行っておくと安心です。
また、定期的に「引き継ぎ資料の棚卸し」を行い、古くなった内容を更新することも重要です。時間が経つと情報が陳腐化しやすく、いざというときに役立たないケースもあります。
引き継ぎは「急にやってくるもの」と捉え、日ごろから備えておくことで、担当者にとっても、組織にとっても安心できる体制を築くことができます。
社内の「あるある課題」への対処法
社内のIT担当として最も頻繁に寄せられるのが、「パソコンの動作が遅い」「インターネットがつながらない」といった日常的なトラブルへの対応です。こうした問題は、原因の特定が難しい一方で、放置すれば業務の停滞や不満の蓄積につながります。ここでは、よくあるITトラブルのパターンとその対処法について、初期対応に役立つ基本ルールを整理します。
「PCが遅い」「ネットが切れる」
「パソコンが重い」「ネットが突然切れる」といったトラブルは、社内の問い合わせの中でも特に多く、緊急性が高く感じられるため、迅速な対応が求められます。ただし、慌てて対応する前に、一定のルールや手順を設けておくことで、無駄な工数を省き、正確な原因特定と再発防止につなげることができます。
まずパソコンの動作が遅い場合は、起動中のアプリやバックグラウンドで動いているソフト、ストレージ容量、ウイルススキャンの有無などをチェックします。必要に応じてタスクマネージャーやディスクの状態確認を行い、原因を絞り込んでから対応します。更新プログラムの適用が長時間にわたり影響しているケースも多いため、その有無も確認しておきましょう。
一方、ネット接続の不具合については、まず対象の端末だけの問題か、全体的な障害かを切り分けることが重要です。Wi-Fiルーターや有線LANの接続確認、IPアドレスの取得状況、再起動による復旧の有無など、段階的に確認すれば、一次対応として十分な効果が得られます。
これらの初期対応フローを簡単なマニュアルとしてまとめておくと、非IT担当者でも自己解決しやすくなり、問い合わせの負担を軽減できます。
「ソフトが使えない」「更新できない」
「ソフトがうまく起動しない」「アップデートが進まない」といった相談は、単なる操作ミスや設定不備のように見えて、実は別の要因が潜んでいることも少なくありません。特に、ライセンスの更新切れや互換性の問題、セキュリティソフトの干渉など、原因が複数絡み合っているケースでは、表面的な対処だけでは解決できません。
こうしたトラブルに対応する際は、まず「何を・どの環境で・どのように操作したときに問題が起きたのか」を丁寧に聞き取ることが重要です。バージョン情報やエラーメッセージの有無、端末の種類、ユーザー権限などの基本情報を確認するだけでも、原因の特定がしやすくなります。
また、ソフトが正しく使えない原因が、導入前の準備不足や、現場との要件共有不足にあるケースもあります。現場の声を無視してツールを導入した結果、運用に支障が出ていることも多いため、技術面だけでなく、導入プロセスそのものを見直す視点も欠かせません。
再発防止のためには、原因と対応内容を必ず記録し、他の社員にも共有できる仕組みにしておくと効果的です。見えにくい原因を丁寧に解きほぐす姿勢が、信頼にもつながります。
何でも頼まれる状況を脱するには?
IT担当者が“何でも屋”のように扱われるのは、社内に「誰に相談すればよいかわからない」状態があるからです。パソコン操作はもちろん、コピー機の紙詰まりや音響機器の設定、デザインや動画編集の相談まで寄せられるようになり、業務の本質とはかけ離れた作業に時間を取られてしまうこともあります。
この状況を改善するには、依頼内容を冷静に分類し、「対応すべきこと」と「本来の担当部署が受け持つべきこと」を明確に伝えることが第一歩です。ただし、突き放すような言い方では反発を招くため、「この件は◯◯部の管理対象なので、そちらに確認してください」と、案内の理由を添えて丁寧に伝えることがポイントです。
また、「対応フローを社内で決めておく」「問い合わせ表や依頼テンプレートを整備する」など、手順やルールを可視化することでも“便利屋扱い”を防げます。必要に応じて、月次で対応件数や内容を簡単に集計・共有すれば、業務の過多を上司に伝える根拠にもなります。
「頼りにされる」のと「雑務を押し付けられる」のは違います。自分の役割と業務の価値を守るためにも、言葉と仕組みで線引きをしていくことが大切です。
ひとり情シス・兼任担当でも無理なく続けるために
IT業務を専任で担当できる環境が整っていない中小企業や小規模組織では、「ひとり情シス」や「兼任担当」が長く業務を回すには工夫が欠かせません。毎回ゼロから対応していては時間も労力も足りず、疲弊してしまいます。そこで、少ないリソースでも効率的にIT業務をこなすためのツールや仕組み、日常の工夫を取り入れることが、安定運用への鍵となります。
既存のツール・テンプレートを使用する
限られた人手でIT業務を担う場合、頼れるのが“手間を省くためのツールとテンプレート”です。特別な知識がなくても使えるものをうまく活用すれば、作業時間を大幅に短縮でき、ミスの防止にもつながります。
まずおすすめしたいのが、IT資産やアカウント管理に使えるスプレッドシートのテンプレートです。機器の型番、使用者、購入日、ライセンス期限などを一覧化するフォーマットを用意しておくと、更新や棚卸しの際にも便利です。Googleスプレッドシートで共有すれば、クラウドでの共同編集も可能になります。
問い合わせ対応のログ管理には、簡易的なチケット管理ツールやフォーム作成ツールが有効です。たとえば、Googleフォームを使って問い合わせ受付フォームをつくり、スプレッドシートに自動記録する仕組みを構築すれば、対応漏れや重複を防げます。
また、マニュアル作成には、操作手順を録画・記録できる無料ツールを活用するのも一案です。静止画だけでなく動画やGIFで操作を見せると、初心者にも伝わりやすくなります。
時間が足りないからこそ、無駄な繰り返し作業をなくすための仕組みづくりが、ひとり情シスの最大の味方になります。
外部リソースを上手に活用する
すべてのIT業務をひとりで抱えるのは限界があります。そんなときに頼れるのが「外部リソース」の存在です。情シス代行サービスやクラウドツールの導入は、コストを抑えつつ業務を安定化させる現実的な選択肢です。
まず検討したいのが、IT運用の一部をアウトソースする「情シス代行サービス」です。障害対応や資産管理、セキュリティ監視などを委託することで、重要だが時間を取られる業務を外部に任せ、自分は社内調整や企画業務に集中できます。特に、緊急時の対応体制が整っていない場合は、24時間サポートのある外部サービスが大きな安心になります。
また、クラウド型のサービス(SaaS)の活用も有効です。メール・ファイル共有・スケジュール管理など、従来オンプレミスで管理していたシステムをクラウド化することで、保守やバージョン管理の手間が大幅に減ります。セキュリティもベンダー側で一定レベルが担保されているため、管理負担も軽減されます。
「すべて自分で対応しなければならない」という思い込みを捨て、リスク分散と効率化を図ることが、持続可能なIT体制づくりにつながります。
スキルアップ・情報収集を続ける習慣づくりも大切
ひとり情シスや兼任担当として働くうえで、日々の業務を回すだけで精一杯になり、情報収集や学習の時間が取れないという声は少なくありません。しかし、ITの世界は変化が激しく、数年前の知識では通用しない場面も増えてきています。小さな習慣でよいので、継続的なスキルアップを意識することが大切です。
まず始めやすいのが、IT系ニュースサイトや専門ブログの定期チェックです。5分で読める記事でも、毎日1つずつ目を通すだけで、業界のトレンドやリスクへの感度が高まります。RSSリーダーやSNSを活用すれば、興味のあるテーマを自動で収集できるため、効率的に情報に触れられます。
また、無料で受けられるオンライン講座やYouTubeの技術解説チャンネルなども豊富にあります。業務に直結する分野から始めれば、学んだ知識をすぐに現場で活かすことができ、モチベーションの維持にもつながります。
「時間があるときに勉強しよう」ではなく、「スキマ時間に少しずつ積み上げる」意識を持つことで、無理なく知識の幅を広げることができます。継続こそ、安心してIT業務を続ける最大の武器です。
「社内ITの見える化」が最初の一歩
社内のIT担当を任されたとき、最初にやるべきことは「すべてを自分で抱え込まない仕組み」を整えることです。IT資産やアカウント管理の見える化、よくあるトラブルへの対応ルール、マニュアル整備、外部リソースの活用など、小さな一手が後の大きな負担軽減につながります。
特に、ひとり情シスや兼任担当の場合、「今だけ何とかなる」ではなく、「誰でも引き継げる」ことを意識して記録と共有を怠らない姿勢が重要です。
本記事で紹介したステップを順に取り組めば、未経験からでも安心して社内IT業務を進める土台が整います。限られた時間の中でも、効率よく対応できる環境づくりを目指しましょう。